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■Winds from New York■
by Junko Kitahama, 10.15.2000
私のご紹介するNYで味わえる日本の「美」のひとつはMETの日本美術です。
四季折々に変えられる琳派の屏風も見どころ。照明をを極力落しているため
最初は薄暗くて陰気な感じですがしばらくすると目が慣れてきてすべてがはっ
きりと見えてきます。華麗な光琳、無彩色の墨蹟そして匠が作り出す究極の
芸術品の数々は世界中何処にもない日本独自の「美」として堂々とMETの中
に君臨しているようです。
あまり知られていませんがMETには大変優秀な日本人Curator(学芸員)
大場武光氏がいて日本は無論のこと中国、アジア美術の修復もすべて彼が
手懸けています。彼のMET内のアトリエはその昔(といっても3年程前まで)
とんでもない場所にあり、はじめて案内してもらったときには本当に驚くやら
おもしろいやらで・・・あちこちウロウロと見物させてもらったのを今でもよーく
覚えています。そのとんでもないところというのはMETの正面口をはいって
インフォメーションデスクのある2階まで吹き抜けのグレートホールと呼ばれる
大ホールの上!だったのです。皆さんも行ってみてそのホールの上を見上げ
てください。たかーい天井には大きなドーム状の明り取りがいくつかありそれを
アトリエから見ると床にでーんとドームが突き出ていてホコリだらけのガラスの
部分からですが下の様子がよく見えるのです。まさか下にいる人達は誰も私が
こんな風に覗いているとは気づいていないだろうと思うとなんだか優越感さえ感
じるのでした。残念ながら(?)今のアトリエは新築されちょうどエジプト美術の
デンドール宮殿遺跡寄りの3階部分に換わっています。
もうひとつの日本の「美」として「裏千家・茶の湯センター」をご紹介します。
Urasenke Thanoyu Center
153East 69th Street
(212)988−6161
所長の山田尚氏とお会いしたのはあるアメリカ人陶芸家の作品展のオープニング
パーティーでした。大勢の来賓の中、山田氏は和服姿でしたので大変よく目立ち
温厚そうな笑顔が印象的な可愛いおじいちゃまという感じ。表千家・茶道講師と
いう肩書きを持つ私を紹介してくださったのはMETの大場氏。さっそくワイング
ラス片手にNY談義を交わし、別れ際に「明日、お茶でも一服差し上げましょう、
センターへいらっしゃい」と気軽にお誘いいただき「それでは遠慮なく!」とお招き
に与ることになりました。日本から一緒にNYに行っていた友人と二人で地下鉄
68st HUNTER-COLLEGE下車。69thの茶の湯センターはまったくそれと分から
ないようなドアで小さくChanoyu Centerの看板があるだけ。ドアを開けていただき
一歩中に入るとそこは別世界のような空間です。まず格子戸が見え、ガラガラっと
開けると何と日本のお家がすっぽりと一軒建っているじゃあありませんか。和服姿
の女性に出迎えられお座敷へ案内される途中廊下づたいには立派な日本の小庭
があり奥には小間の茶室が見えていました。
山田先生は広間でお稽古中でしたが、お弟子さんはアメリカ人の商社マン・・・と
か。着物姿できりりと角帯を締め薄茶の点前をなさっていました。「ほんまにここは
NY?」と疑いたくなるような静寂なひと時、聞こえるのは風炉釜の湯が沸き立つ「釜
鳴り」と言われる音と点前座で動くたびにする衣擦れの音だけ…
NYで思いがけなくいただいた一服のお茶。口の中にほのかに残る干菓子の甘味が
一層薄茶の味を引き立たせている…茶の湯の道具の洗練された美しい飾り付けや
床の間の墨蹟も「侘び・寂」の世界を強調しています。NYに居ながら日本に浸れる
この裏千家茶の湯センターは貴重な場所として、皆さんもぜひNYに滞在中訪れる
機会を作ってみてください。
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